Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
慎吾の部屋には高価なものが多くあったものの、何一つ盗まれていない。また彼の財布の中にあった現金やクレジットカードなども手がつけられていなかった。しかし残念ながらマンションの防犯カメラは故障しており、誰が出入りしたのかはわからない。

「完全に怨恨による犯行ですね」

「そもそも強盗なら家主の生活パターンを数日に渡って調べるだろう。在宅ワークの小説家を狙うとは思えんな」

資料を見ながら話す紫月と蓮を、「未解決捜査課」の四人は睨むような目で見ていた。それを無視して紫月と蓮は話し続ける。

「この箱に読者からの手紙が入っていたんですか?」

「ああ。と言っても三通だけで、筆跡などから同じ人物が書いたものだろうと鑑識が言っていた」

高級なお菓子が入っていたであろう藍色の箱の中に、三通の手紙が入っていた。いずれも丸っぽい字で「この作品のここがよかった」いう風に書かれていたのだが、便箋に手書きのイラストが描いてあった。

一通目にはハート、涙、ヨット、目、野いちご、てんとう虫、肉、ドイツの国旗、櫛の絵。二通目には雀、カート、富士山、ガーネット、巨峰、うさぎ、金の延べ棒。三通目には絵葉書、キツツキ、太鼓、苺、ちくわ、つくし、掃除機の絵が便箋に散りばめるように描かれている。
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