Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
まーくんはそう言い、ペラペラと話し始める。ここ一年間に発売されたミステリー小説で二人の小説家のトリックが全く同じだったというのだ。

「まーくんこと井上透(いのうえとおる)はこの暴露動画を公開したことで、条野さんと揉めたんだそうです。井上透が動画内で出していた名前は二人。一人は条野さん。もう一人はあなただ」

「私は条野さんのトリックを盗んだことは一度もありません」

「どちらにせよ、あなたには動機が生まれるわけです。トリックを盗まれた腹いせに殺害するか、トリックを盗んだことを咎められて殺害するかです。あなたが二日の日の五時半ごろに条野さんの部屋の前にいたという目撃証言もあるんですよ」

「それは、電話がかかってきて「今すぐに家に来てほしい」と言われたからです。でも部屋のチャイムを鳴らしたら、「やっぱりあとにしてくれ」と言われたので帰りました。それから時間を空けてもう一度部屋に行ったのですが、その時には条野さんは何も言ってこなくて……。私は条野さんの部屋に一歩も入っていません!」

「しかし、あなたのバッグの中から彼の部屋の鍵が出て来たんですよ」

「鍵なんて知りません。何かの間違いです」
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