Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「泉さんは宮崎県宮崎市出身だね。高校在学中に小説家デビューをして現在は大学に通いながら小説家として活動してる。これは……!」

真夜はパソコンの画面を紫月に黙って見せる。そこにあったのは、成功した者だけが集まる城に住む彼女からは想像ができない過去だった。

彼女は遠い親戚で精神科医である泉夫妻の養子として十歳の頃に引き取られ、東京に来た。元の苗字は三島。翡翠は両親とアパートで暮らしていたが、アパートで火災が発生し、彼女は助かったものの両親は死亡している。

「児童相談所によく保護されていたのか……」

翡翠は虐待を疑われ、保護されることが多かったことが記録されている。しかしすぐに両親の元に帰されていた。

「火事の犠牲者はこの三島夫妻だけか?」

「そうみたいだね。そもそも、アパートの住民や近隣住民はその日開催された花火大会に行っていたり、出掛けていたりしたみたいだよ」

「このアパートは今でもあるのか?」

「今は取り壊されて駐車場になってる。でも近隣住民はそれほど変わってなさそうだよ」

真夜の言葉に紫月の決心が固まる。この火災について調べるべきだと彼の勘が物語っていた。

「島崎、今すぐ宮崎行きの航空チケットを手配してくれ」

「言われなくてももうやってる」
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