Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜



宮崎に到着した時には午後二時近くになっていた。紫月はコンビニでサンドイッチを買い、タクシーに乗り込んでアパートの場所を目指す。アパートのあった場所は、真夜の調べた通り駐車場になっていた。何台か車が止まっている。

辺りには住宅やアパートが立ち並んでいる。小学校と公園が近いようで、子どもの声が聞こえてきた。翡翠もあのように笑い声を上げることがあったのだろうか。

「あんた、見かけん顔だね。引っ越して来たんか?」

ぼんやりと駐車場を見つめていた紫月に一人の女性が話しかけてくる。猫柄のエコバッグを下げた六十代らしき女性は黒いスーツ姿の男を不審な目で見つめた。紫月はスーツの内ポケットから警察手帳を取り出す。

「私はこういう者です。実はここで十年前の八月に起きた火事について調べているんです。ここがアパートだった時に火事が起きたみたいですね。そのことについて何かご存知ですか?」

「それって、翡翠ちゃんの両親が亡くなった火事のことか!私たちはみんなこう言った。「子どもに酷いことをしていたからバチが当たったんだ」って」
< 53 / 306 >

この作品をシェア

pagetop