Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
女性は苛立ちを隠そうともせず、紫月が質問をせずとも翡翠や彼女の生みの両親について教えてくれた。

翡翠の両親である圭太郎(けいたろう)は火災当時三十六歳。妻の琴美(ことみ)は当時二十五歳だった。琴美は十五歳で翡翠を出産していたことに紫月は衝撃を覚えた。

琴美は幼少期から派手な人間だったらしく、中学生に入る頃には学校を平気で休んで繁華街などで遊んでいたようだ。そんな琴美に声をかけたのはフリーターの圭太郎だった。二人は頻繁に会い琴美は妊娠。圭太郎と琴美は両親の反対を押し切って結婚し、絶縁状態となった。

それからこのアパートで三人は暮らしていたようだが、子どもができても圭太郎は定職に就くことはなく、琴美も働こうとはしなかった。そのため家賃の支払いが滞ることも珍しくなかった。

「お金がないのも、好きなものを買えないのも、ちゃんとあの二人が働かないのが悪いのに、二人は翡翠ちゃんのせいにして毎日のように虐待をしてたんだ。翡翠ちゃんはボロボロの服を着せられて、その服の下には痣がたくさん……。翡翠ちゃんはいつも怯えてた」

「児童相談所が何度か保護したそうですね」

「私らが通報してたからね。でもああいう虐待する親はないことないこと職員に言った。「娘が望んでそんな格好をしている」「体の痣は娘が自分でつけたもの」「体が汚いのは娘が風呂嫌いだから」ってな」
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