Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
その嘘を児童相談所の人間は信じたのだ。翡翠が助けられることはなかった。

「ある時、翡翠ちゃんが夜に泣きながら家の呼び鈴を鳴らしたことがあったわ。あの子、ご飯を茶碗半分しか食べることを許されてなくて、お腹が空いて両親が出前で頼んだ寿司を一貫食べたんだ。そしたらあの馬鹿親は翡翠ちゃんを殴って、彼女の口の中にわさびを大量に入れた」

翡翠は辛さに泣きながら女性に助けを求め、彼女は牛乳を飲ませた後、お腹を空かせた彼女にホットケーキを焼いてやったのだと話す。ホットケーキを翡翠は「おいしい」と泣きながら食べていたそうだ。そしてその日から翡翠は辛いものを見るだけで怯えるほどトラウマになったそうだ。女性の目に涙が浮かぶ。

「あの火事が起きなきゃ、あの子はきっと今頃あいつらに殺されてたよ!あの火事は神様があの子を助けるために起こしたものなんだ!」

「そんなことがあったんですね。お話、ありがとうございました」

紫月がお礼を言うと、女性はあの火事のことを知っている住民の名前を何人か教えてくれた。紫月は女性の情報を頼りに一人ずつ話を聞いていくことにした。

「あの火事?今でも鮮明に覚えてるよ」
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