Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
七十代の男性は拳を握り締めながら言う。その目はどこか遠くを見ていた。この男性は火事が起こった当時、彼女と同じアパートに住んでいた。
「あの火事が起きる前、翡翠ちゃんが私の部屋を訪ねて来たんだ。花火大会の日は家にいるのか訊いてきたね。「部屋にいるつもりだ」って言ったら、「絶対に部屋にいちゃダメだ」って強い口調で言われてね。息子夫婦と花火大会に行くことにしたよ。そのおかげで私は生きているわけだが」
「翡翠さんが……」
「彼女は命の恩人ですよ」
そう言い、男性は笑った。紫月はお礼を言って次の人に話を聞きに行く。次に話を聞けたのは五十代の女性だった。
「そういえばそんなこともあったわね〜」
女性はそう言った後、考え込む。あの日のことを思い返しているようだ。女性は火事が起きた際、野次馬の一人だったと話す。
「女の子が救急隊の人に連れられて行くのを見ました。でもその時、なんか甘い匂いがしたんですよ」
「匂いですか?」
「独特の甘い匂いがしたんですよ。香水とはちょっと違う匂いだったような気がするんですけど」
「なるほど……」
「あの火事が起きる前、翡翠ちゃんが私の部屋を訪ねて来たんだ。花火大会の日は家にいるのか訊いてきたね。「部屋にいるつもりだ」って言ったら、「絶対に部屋にいちゃダメだ」って強い口調で言われてね。息子夫婦と花火大会に行くことにしたよ。そのおかげで私は生きているわけだが」
「翡翠さんが……」
「彼女は命の恩人ですよ」
そう言い、男性は笑った。紫月はお礼を言って次の人に話を聞きに行く。次に話を聞けたのは五十代の女性だった。
「そういえばそんなこともあったわね〜」
女性はそう言った後、考え込む。あの日のことを思い返しているようだ。女性は火事が起きた際、野次馬の一人だったと話す。
「女の子が救急隊の人に連れられて行くのを見ました。でもその時、なんか甘い匂いがしたんですよ」
「匂いですか?」
「独特の甘い匂いがしたんですよ。香水とはちょっと違う匂いだったような気がするんですけど」
「なるほど……」