Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜

「救急隊の知念です。怪我がないか病院で診てもらうため、救急車に乗りましょう」

「……はい」

少女の声は淡々としており、子どもらしい明るさは感じられない。その声に知念はまた心の中に悲しみを感じつつ、彼女の様子を見ながら救急車へと連れて行く。

未だにアパートからは火の手が上がっていた。しかし少女はそれに怯える様子は一切見せない。知念は訊ねる。

「お嬢ちゃん、お名前は？」

「三島翡翠（みしまひすい）」

「翡翠ちゃん！素敵な名前だね〜。翡翠ということは誕生日は五月かな？」

「違う。誕生日は十一月四日」

「……十一月生まれなんだね！歳はいくつなのかな？」

「十歳。今年で十一歳」

少女ーーー翡翠の態度はまるで何十年も生きた大人のように不気味なほど落ち着いていた。しかし彼女の体は十一歳にしては発達しておらず、低学年のように見えてしまう。

「あの」

翡翠が足を止め、知念を見上げる。知念は翡翠と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「どうしたの？」