Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
Interlude Encounter
2018年 6月21日 東京都武蔵野市 午後9時頃

その日は一日中雨が降っていた。地面は黒く濡れ、街は人々が差す傘の色に染まっている。そんな中、男は絶望していた。

部屋の奥にある祭壇に飾られた写真を見ることが辛く、男はそっと葬儀会場を抜け出した。このままここにいると大声を上げて泣いてしまいそうだった。

「詩織(しおり)、何故こんなことに……!」

棺の中で眠る娘を男を想い、涙を流す。娘はまだ中学二年生だった。これから楽しいことがたくさん待っているはずだった。そんな娘は自ら命を終わらせてしまった。

「俺がもっと早く気付いてやれれば……!」

どれだけ悔やんでも詩織は帰って来ない。しかし何度も考えてしまう。男の心の中は絶望に染まり切っていた。その時である。

「娘さんの自殺、原因は何だか知ってます?」

突然声をかけられ、男は涙を拭って立ち上がる。気が付けば後ろに女が立っていた。スーツを着たその女の胸元でバッジが街灯の光を反射している。
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