Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
翡翠の顔には相変わらず表情がない。しかし、次に彼女の口から出た言葉はどこか震えていた。

「父と母はどうなりましたか?」

「二人は……まだ助けられていないんだ」

知念は嘘を吐く必要はないだろうと、真実を翡翠に伝える。翡翠は「そうですか」とまた淡々とした口調で言うと、再び歩き始めた。

知念は翡翠を救急車の中へと乗せる。知念は「ちょっと待ってて」と言い、何かを思い出したかのように翡翠に背を向けて走って行く。その瞬間、彼女の目は大きく見開かれた。痩せ細った両手で己の体を強く抱き締める。

「もう大丈夫だぞ。もうお前を傷付ける者は誰もいない。お前は幸せな女の子に生まれ変わるんだ」

炎はまるで何かを焼き尽くすかのように、激しく燃え続けていた。











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