Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「翡翠の過去を暴いたのだから、あたしもお前の過去を暴いてもいいのか?」

マグカップを置いたアノニマスが口を開く。紫月が答えずにいると、彼女は立ち上がった。パニエで膨らんだワンピースのスカート部分がふわりと動く。

「お前、捜査一課から窓際部署に左遷されたんだろ。捜査一課の刑事とやらが言っていた」

「あいつら……!」

紫月は顔を顰める。その脳裏に浮かんだ顔はもちろん優我と智也だ。

「警察官が左遷されるということは、何かをやらかしたんだろう。やらかした警察官は大抵クビだ。でも何故かお前は仕事を続けていられている」

ドクドクと紫月の心臓が大きく音を立てていく。緊張から体が強張り、アノニマスの言葉を聞くのが怖くなる。しかし彼女は残酷な真実を迷うことなく口にした。

「お前、上層部が引き金となった冤罪事件の責任を押し付けられたんだろう。そのことを公にされないように警察組織に残されている。違うか?」

正解だった。紫月は項垂れた後、ポツリと「始まりは四年前だった」と呟く。頭の中に自身が見た事件現場がはっきりと浮かんだ。
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