Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
紫月たち捜査一課は自身の休息を忘れて捜査に励んだ。特に、修二が悲しげに言った言葉で紫月たち芥川班は犯人を必ず逮捕するという執念を燃やしていた。

「芥川さんは中学生の娘さんを亡くされていたからな……。肩を震わせながら「絶対にこの犯人を許さない。必ず裁きを受けさせる」と言っていた」

しかし残虐でインパクトの大きい事件だったにも関わらず、手がかりはほとんどと言っていいほどなかった。まるでグリム童話の魔女が殺害したかのように、現場からは何も見つからず、容疑者すら浮上しなかった。

「そんな中、容疑者として上がった人物がいたんだな。正確には容疑者ですらないが……」

「ああ。被害者と接点のある男が現れたんだ。名前は立原登(たちはらのぼる)。最初に殺害された女性たちの中学の同級生で、彼女たちにいじめを受けていた。そして女子中学生が通っていた中学で事務員をしていた。他の被害者との接点もあった」

「最悪なことにアリバイがなかった。だから容疑者として名前が上がったわけか」

紫月は取り調べを任され、毎日のように登を尋問していた時のことを思い出す。狭い取り調べ室という非現実的な空間に閉じ込められ、刑事から厳しい口調で尋問され、登は日に日に衰弱していった。
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