Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「そして耐え切れなくなった立原登は自ら命を絶った。その後に立原登のアリバイが見つかったんだ」

「お前は捜査一課から外され、今に至るというわけか」

部屋に沈黙が訪れる。アノニマスはキッチンに立ち、コーヒーメーカーの電源を入れた。コーヒーメーカーが作動するのを見ながら、アノニマスはポツリと呟く。

「刑事のお前からして見れば、あたしのしたことは許せないだろう。でもあたしは、翡翠の中にいた人格たちは、あの時の選択を後悔していない。あのまま動かなければ、翡翠は今ここで生きていなかった」

紫月は立ち上がった。勢いよく立ち上がったせいで椅子が倒れる。アノニマスはその大きな音に驚くこともなく、キッチンに立っていた。紫月は口を開く。その時だった。

「翡翠!!」

ドアが勢いよく開き、リビングにスーツ姿の中年女性が入って来る。髪は走ってきたせいか乱れ、スーツの胸元には向日葵のバッジがあり、紫月はこの女性の職業が瞬時にわかった。

「聞いたわよ。あなた、警察に殺人の容疑をかけられたんですってね?怖かったでしょう?私が北海道での仕事がなければそばにいたのに!」
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