Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
アノニマスを女性は強く抱き締める。アノニマスは「ご心配いただきありがとうございます。でも犯人は捕まりましたから大丈夫ですよ」と笑みを浮かべ、女性の背中に腕を回した。アノニマスは今翡翠を演じている。女性は解離性同一症のことを知らないのだろう。

「太宰さん、こちらは私の叔母の尾崎千秋(おざきちあき)さんです。弁護士をしています。叔母さん、こちらは太宰紫月さん。警視庁で刑事をしてるんです」

「刑事ですって?」

千秋の顔が一瞬にして険しくなる。アノニマスを離した千秋は紫月に近付いて来た。その顔には怒りがある。紫月はその剣幕に後ろに下がったものの、素早く手を掴まれた。

「翡翠を酷い目に遭わせたのはお前か!!よくも私の可愛い姪を……!!」

「ちょっと落ち着いてください!」

紫月がそう言うも、千秋は「うるさい!翡翠に謝罪しなさい!」と言って聞かない。アノニマスが慌てた様子で「私を取り調べたのはこの刑事さんじゃありません」と言ったものの、興奮した彼女の耳には届いていないようだった。

(こいつ、本当に弁護士なのか?人の話を全く聞かない!)
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