Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
舌打ちをし、紫月は不機嫌になりながら玄関へと向かう。低い声で「はい」と言いながらドアを開けると、「太宰さん!」とエコバッグを手にした蓮が笑顔で立っていた。

「は?お前何でいるんだ」

「太宰さんが今日、「通販でチョコレートを大量に買ったから夕飯はそれにする」って言ってたじゃないですか。そんなの体に悪いのでご飯を作りに来ました」

「結構だ。帰ってくれ」

「ダメです!このままじゃ太宰さんは糖尿病になっちゃうかもしれません!」

蓮は強引に部屋の中に入って来た。紫月はため息を一つ吐き、「勝手にしろ」と自分はほとんど使わないキッチンに立った蓮に言う。蓮は「勝手にします!」と笑顔で返し、紫月はタバコを口に咥えながら天気予報を確認しようと思い、テレビをつける。ニュースがテレビ画面に映し出された。

『近畿地震から今日で七年になりました』

アナウンサーが重い口調で語った後、地震発生直後の街の様子が映し出される。瓦礫の山と化した街を見て、「そういえば今日だったな」と呟いた。

七年前、三重県の伊勢を震源地とする大きな地震が起きた。死者・行方不明者は千人を超え、復興が未だ行き届いていない地域もある。
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