Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「……この地震、覚えてます。すごくショックでした」

キッチンから蓮が出てきた。その手は震えている。その様子を見て紫月の頭の中にある記憶が蘇る。地震速報を見た時の綾音だった。

地震があった時間帯は夕方で、学校から帰った紫月は綾音と幸成と家で映画を観ようという話になり、テレビをつけた。その時に映し出されたのは大きく揺れている映像だったのだ。

『何これ……。これ、日本で起きてるの?』

綾音は顔を真っ青にし、体を震わせていた。今にも過呼吸を起こしてしまいそうなほどパニックになっている綾音を二人で必死に宥めた。しかし、体を震わせ、泣いていた彼女の姿は今はどこにもない。

紫月はタバコに火をつけた。タバコの先から天井へと伸びる白い煙を見ながら、彼はゆっくりと息を吐いた。



翌日、紫月と蓮の姿は警視庁未解決事件捜査課にあった。膨大な資料と睨めっこをしながら、紫月は一体自分はいつ捜査一課に戻れるのだろうかと考える。一生この部署と考えるだけで彼の体に寒気が走った。
< 79 / 306 >

この作品をシェア

pagetop