Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「ミステリーは嫌いです。誰かが殺害されて、そのトリックやらを探偵が解いていくなんて、刑事の仕事と変わらないじゃないですか。だから嫌いなんです」

「その刑事の仕事とやら、あんたもここにいる全員もできてないけどね〜」

ファンデーションを塗りながら尚美が言う。その声は刺々しく嫌味だとわかる。紫月は思わず彼女を睨み付けたものの、尚美は自分のデスクに置いた鏡を見ており、紫月のことなど見ていなかった。

「み、皆さん!ちょっと休憩しませんか?昨日こんなの作ったんですよ〜」

蓮が鞄の中からタッパーを取り出す。その中にはサラダピザが入っていた。それをチラリと見た後、紀人は立ち上がる。

「……騒がしくなるなら、外に出た方がよさそうだな」

「あたしも外に行くわ。メイクに集中できないし」

尚美もバッグの中にメイク道具をつめ、立ち上がる。二人が出て行った後、蓮は「僕、まずいことしましたかね……」と苦笑した。紫月が口を開きかけたその時、「すごい!これ、夏目くんが作ったの?」と彰が食いつく。碧も「すごいですね!」とピザを見つめた。
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