Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
挙式場のドアが開き、痩せて神経質そうな五十代後半と見られる男性が入って来た。セットされていたであろうグレーの髪は乱れており、息を荒くしている。

「どちら様ですか?まだ鑑識なども終わっていないので立ち入らないでください」

紫月がそう声をかけると、男性はずり落ちた眼鏡を直しながら「私は父親だ!!」と大声を上げる。株式会社フォレストの現社長の森和成だ。彼は叫ぶような声を上げながら涙を流していた。

「どうしてこんなことに!!息子は……圭太郎は……幸せに……!!」

その場に崩れ落ち、バージンロードに悲しみの涙を零していく。紫月は何を言えばいいかわからず、口を閉ざしてしまった。その時、挙式場の扉が開く。修二と優我と智也が入って来た。修二は泣き崩れる和成を見て、すぐに彼に駆け寄る。

「森さん、息子さんのことはご愁傷様です。私も娘を亡くしています。なのであなたの気持ちは痛いほどわかります」

和成の口から嗚咽が漏れる。修二は彼の肩に腕を回してゆっくりと立ち上がらせ、宥めながら挙式場を出て行った。
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