Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
一度開いてしまった記憶の蓋は閉じることなく、紫月のこれまで起きた嫌な出来事を思い出させていった。

真っ先に思い出したのは、警察学校に通っていた時にとばっちりを喰らって教官に叱られて罰則を受けさせられたことだ。次に大学の卒業式の最中にお腹が痛くなったことを思い出す。

高校生の頃、幼なじみと同じ人を好きになってしまった。懸命にアプローチしたものの想いは実らず、好きな人は幼なじみを選んだ。しかもその好きだった人は現在行方不明である。

中学生の頃、母親がホストにハマりお金をホストクラブへつぎ込むようになり、紫月の家庭は一瞬にして崩壊した。父親と母親は離婚し、紫月は父親に引き取られた。離婚してからは母親に一度も会っていない。

「チッ!」

嫌なことをこれほど鮮明に覚えていることに、紫月は苛立って舌打ちをする。そして胸の中の澱を消し去ろうと枕元に置かれたタバコとライターを手に、彼はベランダに出た。

ベランダを開けるとすぐ、まだ冷たさを含んだ風が肌に触れる。汗で汚れた体など気にすることなく、紫月はタバコを吸い始めた。
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