Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
朋子は顔色が悪かったものの、笑顔を浮かべた。事情聴取をしに来た刑事とはいえ、屋敷に来た客としてもてなそうとしているのだろう。

紫月と蓮も自己紹介をし、応接室に案内された。屋敷の廊下にはヨーロッパから取り寄せたと思われる美しい刺繍が施されたカーペットが敷かれ、豪華絢爛という言葉が相応わしい調度品が美術館のように飾られている。

(すごい家だな)

応接室も廊下のように豪華で、紫月は落ち着きを感じなかった。それは蓮も同じだったようで、隣で萎縮してしまっている。

「失礼致します。お茶をお持ちしました」

紫月と蓮、そして朋子がソファに座ると同時に応接室のドアがノックされ、一人の男性が入ってくる。手に持っているトレーには、二人分のコーヒーとミルクと砂糖、そしてミルフィーユが乗った皿があった。ミルフィーユの存在に紫月の口角が上がる。

「ご足労いただき、ありがとうございます。事情聴取はこの私、宮沢悟(みやざわさとる)と妻の朋子がお答えします。他の者は圭太郎様の死に戸惑っておりますので」

「お二人はご夫婦なんですね。いつからこのお屋敷で働いているんですか?」
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