Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
蓮の質問に悟が「六年前からです」と答えた。悟は前職がホテルの料理人、朋子は清掃員として働いていたそうだ。悟は和也たちの料理を作り、朋子は屋敷の清掃を任されていると悟が話した。

「このミルフィーユも悟さんが作られたんですか?」

紫月の質問に悟は頭をかきながら「ええ」と恥ずかしそうに答える。朋子が微笑みながら言った。

「この人、昔からお菓子作りが趣味なんです。子どもの頃はパティシエになって自分のお店を開くのが夢だったんですよ。なので味の保証はできます!」

「親父に反対されてその夢は叶いませんでしたがね。お菓子作りは女の楽しむものだって言ってましたから。まあ料理の道に強引に進みましたけど」

少し雑談を交わした後、紫月たちは本題である和也や圭太郎のことを質問する。

「お二人から見て亡くなった圭太郎さんはどのような人物に見えましたか?」

紫月の質問に対し、悟と朋子は顔を見合わせた後、気まずそうに声のトーンを小さくする。

「あまり、亡くなった方を悪く言いたくはないのですが……」

朋子がそう言い話したことは、予想していた以上に酷いものだった。
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