Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
圭太郎は不妊治療の末に授かった一人息子だったようで、溺愛という言葉では収まらないほど大切にされていたらしい。特に彼の父親である和也は跡取りが生まれたことに一番喜び、圭太郎を甘やかしていたようだ。

ほしいものは何でも変え与えられ、幼い頃から「お前は特別な人間だ」と刷り込まれてきた人間がどうなっていくのか、紫月は拳を握り締める。その内側にはじっとりと嫌な汗をかいていた。

圭太郎は幼い頃からまるで王様のように振る舞っていたそうだ。学生の頃は比較的貧しい家のクラスメートをいじめ、何度も学校から連絡があった。しかし和也がお金で解決してきたそうだ。

「わがままで傲慢な正確ですから、お友達と呼べる存在はいませんでした。取り巻きはいたみたいですけど」

悟がそう言うと、朋子が大きく息を吐いた。その目には哀れみが込められている。

「大人になってからは、仕事では次期社長としてそれなりの振る舞いはするようになったんですけどね……。ただ、恋愛面の方じゃ宇山さんが可哀想だわ」

今日、妻となる予定だった人物の名前が上がった。蓮が「どういうことですか?」と促す。朋子は暗い顔で続きを話した。
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