Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
「お話を今から伺うことってできそうですか?」

蓮の問いに朋子は時計をチラリと見た後、「そろそろ診療時間終了なので大丈夫だと思います」と答えた。紫月は蓮に「行くぞ」と声をかけ、立ち上がる。

「お時間いただき、ありがとうございました。あとミルフィーユ、とてもおいしかったです」

そう言い、紫月と蓮は屋敷を後にした。



小さな診療所の前では、一人の看護師が箒で落ち葉を掃除しているところだった。紫月が声をかけると、「妹から話は聞いています。どうぞ中へ」と促した。

診療所の待ち合い室は患者が誰もおらず、静かだった。診察室に案内され、紫月と蓮は「失礼します」と言い中に入る。診察室の中では、白衣を羽織った医師がカルテを見つめていた。しかしすぐに二人に気付き、顔を上げる。

「こんにちは。話はお義姉さんからざっくりと聞きました。森圭太郎さんが亡くなられたそうですね」

圭太郎の主治医である新美健太郎(にいみけんたろう)と妻の新美優子(にいみゆうこ)はどこか暗い表情で言った。

「圭太郎さんは命に関わるような病気だったんですか?」
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