Anonymous〜この世界に生まれた君へ〜
蓮の問いに対し、健太郎は「そんな大病なら、大きな病院をとっくに紹介していますよ」と返す。そしてカルテを見ながら圭太郎の症状などを話した。

圭太郎は、約二ヶ月ほど前からこの診療所に定期的に通っていた。倦怠感と食欲不振が続いていたそうだ。健太郎は血液検査などを行ったものの、詳しい原因はわからず、症状は改善することがなかったそうだ。処方されていた薬はどこの病院でも出されているようなものばかりで、特殊な治療なども行われていない。

「大きな病院を紹介するほど深刻な状態には見えませんでした。病気で突然死は考えられません」

優子がそう言い、部屋に沈黙が訪れる。解剖結果がまだ出ていない今の段階では、紫月は何も言うことができない。紫月は目だけを動かし、診察室の中を見る。その時棚の上に二枚の写真が置かれているのに気付いた。一枚目には宮沢夫妻と新美夫妻、そして全く知らないもう一組の夫婦が映っていた。

「こちらの写真に写っているご夫婦はどなたですか?」

紫月の質問に健太郎は目を伏せた。優子が先ほどよりも暗い顔で「兄とそのお嫁さんです」と答えた。優子は三人兄妹のようだ。
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