【続】ハーフ☆ブラザー 突然出てきた弟に溺愛されてます!
私達に血の繋がりがあるという父さんが良かれと思ってついた嘘。
だけどそれは、今の大地にとって《重荷でしかない現実》なのかもしれなかった。

「立場はわきまえているつもりですから、どうぞ、お気遣いなく。
───ご馳走様でした」

言って大地は、手にしたスプーンを置いた。
……不自由な手を思い、食べやすいようにと用意したオムライスも野菜スープも、ほとんど手付かずだった。

「……もういらないの?」
「食欲がないので。……残りは明日の朝にでもいただきます」

立ち上がり、大地は軽く頭を下げた。
そのまま捻挫(ねんざ)で済んだという右足首をかばうようにして、自分の部屋へと戻って行った。

とりつくしまがない───いまの大地を表現すると、そんなひと言で終わってしまう。

記憶を失ってからの大地が笑うところを、私はまだ、一度も見ていない。
まるで以前の大地が、一生分の笑顔を使い果たしてしまったからだとでもいうように。

でも。

考えてみれば、初めて会った時すでに、大地は私を知っていたのだ。
そして……私を、好きでいてくれた。

だからこそ大地は、自分の中にある複雑な感情を押し殺して、私に気を遣わせまいとしていたのかもしれない。

……私が内心「宇宙人か」と突っ込むほどの、屈託のない笑顔を向けることによって。

本当なら、本妻の子と愛人の子だなんて、いがみ合わないまでも気まずさは隠せない関係だったはずだ。
にもかかわらず、歳の離れた姉弟のようにいられたのは、全部、大地のおかげだったのだ。

今まで考えることもなかった事実に行き当たり、切なくて、泣いてしまいそうになった。
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