眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
「沈黙は肯定とみなすが。……やはりそうだったんだな、それも当然か」

 わずかに体が離されれば正面から見つめ合う形になってたじろいだ。背中に回された腕が動いて、そっと頬を手のひらで包まれる。

「だとしても、今の美雨は俺のものだ」
「あ……」

 すっと顔を近寄せられて美雨はとっさに目を閉じた。唇に柔らかな感触が重なる。反射的に身を引こうとすれば、逃がすまいとでもいうように頭を抱え込まれた。甘やかな熱を惜しみなく注がれる。
 初めてのキスだった。
 角度を変えて何度も口づけられて、瞼の裏にぱちぱちと光が爆ぜるようで体から力が抜けていく。抗えない。くたりと蕩けた美雨の顔を嶺人が覗き込んだ。

「……この先も、いいか?」

 長いまつ毛が物憂げに伏せられ、嶺人の目を翳らせる。けれど深い黒色の瞳の底に熾火のようにくすぶる情熱の色があって、美雨は息を呑んだ。
 この先、の意味がわからないほど無垢ではない。どうせどうあがいても美雨が嶺人を拒むなんてできやしないのだ。たとえこれが、美雨に与えられる慰みだったとしても。
 さっきからちっとも状況についていけなくて、何もかもが夢みたいに霞んで見える。たぶん頭に血が巡っていない。顔が赤くなっているのを自覚しながらも頷こうとして――美雨はハッと正気に戻った。

「だ、ダメですっ」

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