眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 両手を持ち上げて嶺人の胸元をぐいと押す。美雨の力では嶺人はびくともしなかったが、わかりやすく眉が下がった。

「……そうか。悪い、抑えが効かなかった」

 その声があまりにも自罰的なので美雨は焦って頭を横に振った。

「そうではなくて、私、その、足が……」

 嶺人が静かに美雨を見下ろす。こちらを責めるふうでもない、冬の陽だまりのような眼差しに美雨は泣きたくなった。

「ひ、開かないんです。だから……っ」
「わかった。それ以上は言わなくていい」

 詳しく説明しようとした美雨を嶺人が短く制す。涙声になった美雨の頭を引き寄せ、なだめるように額に口づけた。

「大丈夫だ。俺はそのために美雨を選んだわけではない」
「ですが、っ」

 喉の奥に込み上げてくるものを必死に飲み下す。情けなくて唇を噛んだ。せめて体だけでも差し出せたらよかったのに、美雨はそれすらできないのだ。

「他の方法でも、きっとご満足いただけます。私、何でもします。だからどうか……」

 一晩だけでも、と続けた美雨の震える肩を嶺人が両手で掴んだ。骨が軋みそうなくらい強い力だった。おそるおそる顔を上げて息を詰める。恐ろしいほどの無表情をした嶺人と目が合った。

「……そういうことを、軽々しく言うな」
「どうしてですか? 私は本気です。本当に、嶺人さんになら何をされてもいい」

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