眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 じっと見つめ返して言い募れば、嶺人が深く嘆息する。美雨の肩を掴んだまま低い声で呟いた。

「他の男にも同じことを言っていないだろうな」
「こんなはしたないこと、嶺人さんにしか言えません。それに私は大してモテませんし」

 美雨には男が寄り付かなかった。不思議ではないと思う。いくら社長令嬢とはいえ足が悪くて引きこもりがちで楽しい話もできない小娘に誰が近づこうと望むだろうか。
 ごく稀に参加したパーティーで、肩書きに惹かれた男が一言二言話しかけてくることがあったが、すぐに美雨の周りを見て青ざめて退散していった。よほど美雨はつまらない人間なのだろう。

「美雨につきまとう虫どもを追い払うのに苦労したのは俺なんだが……まあ、それはいい」
「はあ」

 どこか遠い目をした嶺人が軽く咳払いをする。

「俺は美雨を大切にしたい。だからそう容易く許しを与えるな。本当に、何をするか知れたものではないぞ」
「……何をなさるのですか?」

 純粋に気になって美雨は訊いた。何をされても平気な覚悟はできているつもりだが、そこまで脅されるとちょっぴり怖くなってくる。
 神妙な顔つきの美雨に嶺人は窺うように目を眇めた。

「およそ美雨が想像し得ないことを、際限なく。……逆に美雨は何だと思っているんだ」
「えっ⁉」

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