眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 西城美波は嶺人の苦手とする人物だった。優秀だが真面目で気が強い。この頃の鬱屈した嶺人とは水と油だった。

『まあ。いつも姉がお世話になっております』

 美雨は何も知らぬように、のほほんと微笑んでいる。日直をサボった嶺人に目を釣り上げる美波と血縁とはとても思えない。
 しばしの逡巡の後、嶺人は声を振り絞った。

『その……もしよければ、連絡先を教えてくれないか』
『ごめんなさい、できません』

 答えはきっぱりとしたものだった。笑顔だが取り付く島もない。その確かな拒絶には否が応でも美波との血の繋がりを感じさせられる。

『そうか……』
 思わずうなだれた嶺人に、美雨は慌てたように手を振った。
『あの、先輩がどうというわけではなくて。そういうのは断りなさいって、姉に言われているのです』
 美波が委員長然として妹に説き諭す姿が目に浮かぶようだ。嶺人は気を取り直し、まじまじと美雨を見つめる。
『よく声をかけられるのか』

 それはそうだろうと思う。透けるように白い肌に、桜色の小さな唇。星彩の瞬くような、大きな瞳が印象的な、可憐な少女だった。
 美雨は顔を伏せ、嫌そうに頷く。『少し、ですけど』
 その瞬間、嶺人はこの少女を守ってやりたくて堪らなくなった。ついで、他の男が美雨に声をかけるところを想像して苛立ちが込み上げてくる。

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