眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
初めてのデート
「待ち合わせ場所ってここで合っているのかしら……」
夕日が街をオレンジ色に染める頃。丸の内までやって来た美雨は、岬地所の本社ビルの前できょろきょろと辺りを見回していた。
今夜は嶺人が美雨とともに出かけたいというので、仕事終わりの彼と本社で落ち合うことにしたのだ。
嶺人は家まで迎えにいくと主張したが、手を煩わせるのが申し訳なくて美雨が断った。さすがにそれくらいはできる。
「それにしても、すごく大きなビルね……」
空を貫くような高層ビルは夕紅を眩く照り返している。警備員の立つエントランスからはひっきりなしに社員が出てくる。定時だから皆帰宅するのだろう。
一様にスマートなスーツかオフィスカジュアルのスタイルで、大股に颯爽と歩いていく。目的地を持った人の堂々とした足取りだった。
美雨は自分の格好を見下ろしため息をついた。上品なピンクブラウンのニットにミモレ丈の黒フレアスカートと、それなりの格好をしてきたつもりだが自分が場違いなように感じられる。
(……でも、いつまでもこうしているわけにはいかないわ)
美雨は杖の持ち手を握り直し、人波に逆らってビルへ入り込む。肩に提げたポシェットには嶺人の名刺が入っていた。困ったらこれを見せれば何とかなる、とお墨付きだ。
「あの、すみません。れい……じゃなくて、岬専務と六時にお約束している西城と申しますが」
受付へ向かえば、華やかに化粧をした受付嬢が応対してくれた。きちんと教育されているのか、いかにも怪しい美雨にも顔色一つ変えない。
「西城様ですね、少々お待ちください」
隙のない営業スマイルを浮かべ、PCで何やら検索を始める。その笑顔のままピタリと手を止め、声音だけは申し訳なさげに応じた。
夕日が街をオレンジ色に染める頃。丸の内までやって来た美雨は、岬地所の本社ビルの前できょろきょろと辺りを見回していた。
今夜は嶺人が美雨とともに出かけたいというので、仕事終わりの彼と本社で落ち合うことにしたのだ。
嶺人は家まで迎えにいくと主張したが、手を煩わせるのが申し訳なくて美雨が断った。さすがにそれくらいはできる。
「それにしても、すごく大きなビルね……」
空を貫くような高層ビルは夕紅を眩く照り返している。警備員の立つエントランスからはひっきりなしに社員が出てくる。定時だから皆帰宅するのだろう。
一様にスマートなスーツかオフィスカジュアルのスタイルで、大股に颯爽と歩いていく。目的地を持った人の堂々とした足取りだった。
美雨は自分の格好を見下ろしため息をついた。上品なピンクブラウンのニットにミモレ丈の黒フレアスカートと、それなりの格好をしてきたつもりだが自分が場違いなように感じられる。
(……でも、いつまでもこうしているわけにはいかないわ)
美雨は杖の持ち手を握り直し、人波に逆らってビルへ入り込む。肩に提げたポシェットには嶺人の名刺が入っていた。困ったらこれを見せれば何とかなる、とお墨付きだ。
「あの、すみません。れい……じゃなくて、岬専務と六時にお約束している西城と申しますが」
受付へ向かえば、華やかに化粧をした受付嬢が応対してくれた。きちんと教育されているのか、いかにも怪しい美雨にも顔色一つ変えない。
「西城様ですね、少々お待ちください」
隙のない営業スマイルを浮かべ、PCで何やら検索を始める。その笑顔のままピタリと手を止め、声音だけは申し訳なさげに応じた。