眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
屋上は庭園になっていて、吹き抜ける風が木々の枝を揺らしていく。美雨は髪が風に乱れるのも構わず庭園の端に近づいた。
フェンス越しに見下ろせば、遥かにきらめく夜の街明かりが目に染みた。夜空には月もなくて、星明かりは街の営みにかき消される。
「……嶺人さん、私、言わなくてはいけないことがあります」
美雨は煌々と輝く夜景に背を向けた。嶺人は眩しげに目を細めて美雨を見つめる。
「なんだ? 別れ話以外なら聞こう」
「別れ話では、ないのですが」
美雨は深く息を吸い込み、杖の先でトンと地面を突く。石畳の固い感触が手のひらに跳ね返る。
嶺人から目をそらさず、美雨はゆっくりと口を開いた。
「――私の足、本当はもう治っているんです」
二人の間を強い風が通り抜ける。ざわりと音を立てて葉が揺れる。嶺人の表情はぴくりとも動かなかった。
「より正確に言います。事故で負った怪我自体は完治しています。けれど、医師が言うには――心因性の理由で、私は未だ歩けないのだそうです」
医師は痛ましげに、事故のトラウマだろうと言った。何かのきっかけで歩けるようになることもあるから諦めずにリハビリを続けろと。
しかし、美雨は自分がなぜ歩けないのかよく理解していた。
フェンス越しに見下ろせば、遥かにきらめく夜の街明かりが目に染みた。夜空には月もなくて、星明かりは街の営みにかき消される。
「……嶺人さん、私、言わなくてはいけないことがあります」
美雨は煌々と輝く夜景に背を向けた。嶺人は眩しげに目を細めて美雨を見つめる。
「なんだ? 別れ話以外なら聞こう」
「別れ話では、ないのですが」
美雨は深く息を吸い込み、杖の先でトンと地面を突く。石畳の固い感触が手のひらに跳ね返る。
嶺人から目をそらさず、美雨はゆっくりと口を開いた。
「――私の足、本当はもう治っているんです」
二人の間を強い風が通り抜ける。ざわりと音を立てて葉が揺れる。嶺人の表情はぴくりとも動かなかった。
「より正確に言います。事故で負った怪我自体は完治しています。けれど、医師が言うには――心因性の理由で、私は未だ歩けないのだそうです」
医師は痛ましげに、事故のトラウマだろうと言った。何かのきっかけで歩けるようになることもあるから諦めずにリハビリを続けろと。
しかし、美雨は自分がなぜ歩けないのかよく理解していた。