眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
「よく理解した。美雨の怪我が完治しているなら良かった」
「……えっ?」
「ああ、すまない。完璧に治ってはいないのか。だが、心因性のものならいつかは歩ける望みが持てるんだろう? 喜ばしいな」
そう言う嶺人の口元には確かに微笑の余韻が漂っていて、美雨は絶句する。笑いどころではない。今、嶺人は怒るべきところだ。悪党の美雨を罵って断罪すべきだ。彼にはその権利がある。
それなのに嶺人は何やら一人で納得すると、一歩、美雨の方へ足を踏み出した。
「それよりここは風が冷える。帰ろう」
「ま、待ってください!」
近づいてくる嶺人のことが全くわからなくて、美雨は悲鳴じみた声をあげる。たった今、初めて彼を怖いと思った。理解できないものは、怖い。
「私は嶺人さんを騙していたんですよ! 私があの事故で歩けない怪我を負ったように見えたから、嶺人さんは私と結婚する道を選んだのでしょう? 本当は美波姉様と結婚したかったのに! 私に気を遣わなくていいから、ちゃんと好きな人と結婚してください!」
叫びながら、冷や汗が背中を伝うのを感じる。ここまで言ってしまえば本当に戻れない。今にも嶺人は美雨を振り捨て、この場から立ち去ってしまうかも。
「――ほう?」
しかしそのとき美雨の耳に届いたのは、今まで聞いたこともない、冷ややかな声音だった。
「……えっ?」
「ああ、すまない。完璧に治ってはいないのか。だが、心因性のものならいつかは歩ける望みが持てるんだろう? 喜ばしいな」
そう言う嶺人の口元には確かに微笑の余韻が漂っていて、美雨は絶句する。笑いどころではない。今、嶺人は怒るべきところだ。悪党の美雨を罵って断罪すべきだ。彼にはその権利がある。
それなのに嶺人は何やら一人で納得すると、一歩、美雨の方へ足を踏み出した。
「それよりここは風が冷える。帰ろう」
「ま、待ってください!」
近づいてくる嶺人のことが全くわからなくて、美雨は悲鳴じみた声をあげる。たった今、初めて彼を怖いと思った。理解できないものは、怖い。
「私は嶺人さんを騙していたんですよ! 私があの事故で歩けない怪我を負ったように見えたから、嶺人さんは私と結婚する道を選んだのでしょう? 本当は美波姉様と結婚したかったのに! 私に気を遣わなくていいから、ちゃんと好きな人と結婚してください!」
叫びながら、冷や汗が背中を伝うのを感じる。ここまで言ってしまえば本当に戻れない。今にも嶺人は美雨を振り捨て、この場から立ち去ってしまうかも。
「――ほう?」
しかしそのとき美雨の耳に届いたのは、今まで聞いたこともない、冷ややかな声音だった。