眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
 ひゅっと息を呑んで嶺人を見つめる。先ほどまでの穏やかな微笑、あるいは完全な無表情とは違って、整った顔には明らかな激情が浮かんでいた。――怒りだ。

「美雨が勘違いしているとは思っていたが、まさかここまでとは。俺たちの間には夫婦の話し合いが必要なようだな」
「あ、あの……? きゃあっ」

 おたつく美雨の元へ、嶺人が大股に歩み寄ってきて軽々と横抱きにした。激怒している気配とは裏腹に、美雨を抱き上げる手つきは優しい。

「えっ……え、どうかしましたか⁉」

 一体何が嶺人の逆鱗に触れたのか心当たりがない。いや逆だ。ありすぎて特定できない。両手をばたつかせると「暴れるな。落とす気はないが他の手段で黙らせるぞ」と凄まれたので大人しくする。他の手段って何だろう、ロープでぐるぐる巻きにされるのだろうか。
 そんな馬鹿馬鹿しいことを考えているうちに、美雨はクーペの助手席に放り込まれていた。

「きゃ……っ!」
 運転席に乗り込んだ嶺人が、呆然とする美雨をシートに押さえつける。そのまま躊躇なく美雨の唇を食んだ。
「ふ、んんっ……あっ」
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