眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
「高校のときに学園祭があっただろ。俺は写真部で……企画展示を見に来た美雨が、俺の作品を綺麗だと言ってくれたんだ」
「……あれっ?」

 眼裏に閃くものがあって、美雨は声を上げた。

「熱帯魚の写真の先輩? あれは嶺人さんだったのですか?」
「そうだ」

 嶺人は端的に応じ、感慨深げに囁いた。「やっと思い出してくれたか」
 一方、美雨は過去の思い出をたぐりよせ、懸命に点と点を線で繋げていた。急に色々なことが腑に落ちて、固いもので頭をぶん殴られたような衝撃に見舞われる。ベッドの上でワーッと叫んで丸くなりたくなった。

「き、気づきませんでした……。では、もしかして今日の水族館も? 事故以来行けていなかったから、だけでなく? あの写真の思い出だから?」
「急に察しが良くなったな。ああそうだよ、当然だろう」
「当然……」

 目を丸くして嶺人を見つめ返す。自分が見落としていただけで、この人は今まで一体どれほど心を砕いてくれていたのだろう、と震えが走る。
 嶺人がそっと手を伸ばして、美雨の手を握った。存在を確かめるようにしっかりと。

「学園祭で美雨が美波の妹と知って、それから俺は美雨に近づこうと思って、色々と画策した。つまり、俺が好きになったのが絶対に先だ。この結婚に美雨の事故は関係ない。悪いが、美雨の足がどうなっていようと俺の気持ちは今更変わりようがないんだ」
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