四葉に込めた一途な執愛


 先生にとっては、あくまでも診察。
 私の記憶が戻るように最善を尽くしてくれているだけ。

 それでもいい、先生に会えるなら。
 先生との時間が増えるなら、それでも良かった。

 このまま記憶が戻らなければ、私は先生の傍にいられるのかな――?

 そんな考えが過ぎってしまうなんてダメだ。
 陽生先生は私の記憶が戻るための手助けをしてくれているのに、それを利用しようとするなんて。


「――っ、先生……」

「ん?」

「……いえ、今日はもう帰ります」

「じゃあ送っていくよ」


 陽生先生は帰る時、必ずエントランスまで送ってくれる。
 先生の隣を歩く時、自分の右肩が熱を帯びたように熱くなる。
 一人分の距離を空けて歩くのが、何だかもどかしい。


「っ!――危ない!」


 急に先生は大声をあげたかと思うと、私を抱きしめて壁際に押し付けた。

 背中は壁、至近距離には陽生先生。
 突然すぎて頭が追いつけていない。


「すみません!大丈夫ですか?」


 どうやら宅配業者が来ていたようで、大型の荷物を運んでいたのが倒れてしまったらしい。
 咄嗟に陽生先生が庇ってくれたんだ。


「大丈夫?四葉さん」

「は、はい」


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