四葉に込めた一途な執愛
そんなことよりも、先生の綺麗な顔との距離が近くてそちらの方が落ち着かない。
「よかった、四葉さんに何もなくて」
そんな風に笑いかけてくれたら――私じゃなくても勘違いしてしまいそうになる。
陽生先生が優しいのは私にだけじゃないのに。
私に優しくしてくれるのは、きっと同情からなのに。
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい、失礼します」
「またね」
先生に見送られ、私は帰路を辿る。
帰りながら、シロツメクサの押し花を見上げてみた。
わざわざ四葉のクローバーを探して摘んで押し花にしてくれたのかなぁと思うと、すごく特別感を感じる。幸運のお守りみたい。
「幸運」以外の花言葉とは何なのだろう。
とても気になったけど、自然と思い出せたほうがいいのかな。
私は記憶を取り戻すための努力を何もしていない。
「……先生に嘘ついちゃった」
本当は前のスマホ、壊れてなんかいなかった。
充電して電源を入れたらちゃんと動くと思う。
新しくスマホを買った時に契約は解除してしまったから使えないけど、きっと写真等は残っている。
でも、スマホを立ち上げてみるのが怖かった。
自分のことを知るのがこんなにも怖いだなんて思っていなかった。
最初は何者かわからない自分が不安だったのに、今は自分を知ることが怖いなんて。
それも全部陽生先生のせいだ。
もし記憶を取り戻してしまったら、私は陽生先生の元に通う理由がなくなる。
先生に会う理由がなくなってしまう。
そんなずるいことを考えてしまうくらい、私は陽生先生と一緒にいたいと思ってしまっているのだ。
そんなこと無理なのに。