四葉に込めた一途な執愛


 私の知識なんて本当に大したことはない。
 子どもが知っているような小さなことなのに、陽生先生はうんうんと頷きながら聞いてくれた。


「ネモフィラは湿度の低い環境を好むので、実はそんなに水やりしなくても大丈夫なんです」

「へぇ」

「だから初心者でも育てやすいそうです」

「なるほどな」


 母に教えてもらったことをそのまま話しているだけなのに、興味深そうに聞いてくれる。

 陽生先生は優しい。いや、これが先生の仕事だから当然なのかもしれないけれど。
 私がリラックスできるように努めてくれているのだ。


「お花の世話は楽しい?」

「そうですね、楽しい、かもしれないです」

「そっか、まだわからないかな」

「……すみません、何だかよくわからなくて」

「謝らなくていいんだよ。ただ、四葉さんにとって少しでも楽しいことがあったらいいなと思って。
わからないことだらけで、きっとストレスに感じてるだろうからね」


 私は何かとすぐに謝ってしまう癖がついてしまった。

 色んな人に迷惑をかけているのに、私はまだ何も思い出せていない。
 自分のアルバムを見せてもらっても、花屋の仕事を手伝わせてもらっても、新鮮な記憶として刻み込まれるだけ。

 何も思い起こされることはないのだ。


「……あの、陽生先生」

「何かな?」

「――いえ、なんでもないです」


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