四葉に込めた一途な執愛

シロツメクサの押し花



 私が目覚めてから一ヶ月が過ぎた。
 記憶は未だに戻らない。

 それでも両親に支えられ、何とか日々を過ごしている。


「ちなみ、陽生先生のところに行くの?」

「うん」

「送っていきましょうか?」

「大丈夫、病院までの道のりは覚えたから」

「そう……ねぇ、ちなみ」

「何?」

「――、何でもないの。楽しんできてね」


 お母さんは何か言いたげだったが、笑って言葉を飲み込んだ。

 何を言いたかったのか、何となくわかるような気がする。
 週一の診察なのに「楽しんできて」というあの言葉、少しでもいいから私に笑って欲しいということなのだ。

 私は記憶ともう一つ失ったものがある。
 それが笑顔だった。

 私は笑い方というものを忘れてしまった。
 これは陽生先生に言われて気づいたことだった。

 私は今、ほとんど表情が変わらないらしい。
 楽しいと思っていても、それが表情に表れない。

 鏡の前で笑おうとしてみても、なんだかぎこちなくて変だった。


――私、今までどうやって笑ってたんだっけ……?


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