淡いピンクのカクテルは、私と彼を甘く誘う～凄腕脳外科医に溺愛されています～

「昨日、知花から誘ってきたんだけど？」
「……っ！？」


サーッと、全身の血の気が引いていく。

頭の中が混乱していて、バーの店員さんの名前、彼の名前すらも思い出すことができない。


「あ、あの……私、帰ります」
「えっ、ちょっ……おい！」

「ごめんなさい！！」


ベッドから勢いよく起き上がり、ベッドサイドに散らかっている洋服を着ると、急いで部屋を飛び出した。

スマホで地図アプリを開いて最寄り駅を探すと、悠稀と住んでいたマンションへと向かう。

電車に揺られながらかろうじて明確に思い出せたことは、悠稀の浮気が発覚し、それが理由でマンションを飛び出したことだ。


あぁ……。
結局、悠稀ともダメだった。

しばらく実家に帰って、気持ちを落ち着けよう。フラワーショップは実家から通える距離だから、退職する必要はないし。

昨日の夜の出来事も……。
きっともう、彼と再会することもないだろう。

そんなことを考えながら悠稀と住んでいたマンションへと戻り最低限の荷物をまとめると、静かに悠稀との思い出に蓋をした。


マンションを出るときに玄関先に知らない女性のピアスが片方だけ落ちていたことを、私は見逃さなかったーー。