淡いピンクのカクテルは、私と彼を甘く誘う~凄腕脳外科医に溺愛されています~
『抱いてください』

上目遣いで弱々しくそう言った彼女のことを、丁寧に抱いた。

女性らしい、白くて柔らかい肌。
もちろん彼女と抱き合ったことがすべてではないけれど、もう一度知花に会いたいのだ。


「本当に、あの日以来ここへも来ていないのか?」
「本当だって。しつこい奴だな」

「……悪いな」


〝しつこい〟ね。
まぁそう言われてしまっても仕方がない。

知花と出会った日から1ヶ月が過ぎ、普段こんなに頻繁に訪れることないバーに何度も足を運んでいる。

カクテルを注文するわけでもなく、彼女が訪れていないかだけの確認をして帰宅。
泊にとっては、迷惑な客だろう。


「まぁ、また見かけたら言ってやるから」
「頼んだ」


ちょうどそのとき、ポケットに入っている病院専用のスマホが震えだした。

画面をタップすると、看護師長の香坂さんがいつもの慌てた口調で話し始める。


『岡林先生すみません。つい先ほど救急車が入りまして。泥酔し転倒した79歳男性、頭部CT検査にて脳挫傷があり。脳挫傷の範囲が広く、出血しているそうです。今から来れますか?』

「わかった、すぐ行く。オペ室に連絡して、すぐオペに入れるようにしておいてくれ」
『承知しました』


用件だけ伝えすぐに電話を切ると、俺は急いでお店を飛び出し勤務先である鷹取(たかとり)総合病院へと向かった。
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