淡いピンクのカクテルは、私と彼を甘く誘う~凄腕脳外科医に溺愛されています~
友香梨が休憩室に入ったことを確認してから、仕事に戻ろうとしたとき。


「知花」


背後から、私を呼ぶ声が聞こえた。

そこには予想外の人物が立っていて、言葉に詰まる。


「……悠…稀」
「久しぶり」


悪びれもなく、普通に話しかけてくる悠稀。またなにかされるのではないかと思い、後退りながら彼の様子を伺う。

今日、幸聖さんは当直明けで寝ている。彼が現れて助けてくれる……という展開にはならないだろう。

大声で、店長を呼ぼうか……と、そう思ったとき。


「知花、ごめん」


地面に頭が着くんじゃないかと思うくらい、深々と下げて謝罪の言葉を口にした悠稀。

……え、なに?


「辛い思いさせて、本当にごめん」
「………」

「俺、知花がいい女だってこと、別れるまで気付かなかった。本当、バカだった」


必死に思いを伝えてくれる悠稀。

きっと、私が家を出て行ったあと、ほかの女性と付き合ったのだろう。そこで私と比較して、私の大切さに気付いた、と。

そんなこと、今さら気付かれてもどうしようもない。


「戻って……来ない、か?」
「は?」

「そう思って当然だよな。でもやっぱり俺、知花がいないと……」

「やめて」


まだなにか言いたそうな悠稀の言葉を遮る。
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