淡いピンクのカクテルは、私と彼を甘く誘う~凄腕脳外科医に溺愛されています~
長身の男性は私の真横に腰かけると、すぐにメニュー表を開いた。

どうやら、ここに通いなれているらしい。


「なににする?」
「フロリダでいい」
「岡林、相変わらずだな」

「明日は当直なんだ。アルコールを体内に残したまま診察するわけにはいかない」


……ん? 今、診察って言った?
もしかして、彼はドクター?

そんな疑問がふつふつと湧いてきて、彼の顔をジッと見つめる。

男性なのに、整ったきれいな顔だ。


「なんだ? 俺の顔になにか付いてる?」
「えっ……!? いえ、すみません」


や、やばい! 見つめていたことが、バレてしまった。

慌ててカクテルグラスに目を移すも、中身はすでに空っぽ。
すぐさまメニュー表を手に取って、顔を隠すかのようにカクテルを選ぶ。


「あはは! 岡林、彼女は失恋したばかりなんだ」
「失恋?」

「えっ……! ちょっと……!?」
「いいじゃないか。〝淡い思い出〟にするんだろ?」


カクテルグラスを拭きながら、店員さんは得意気な表情で私のことを見つめる。

い、いや……。
なに『上手いこと言っただろ?』みたいな顔してるのよ。

人が惨めだと思っていることを、簡単に他人に話すなんて。
ますます惨めになるじゃない。
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