淡いピンクのカクテルは、私と彼を甘く誘う~凄腕脳外科医に溺愛されています~
きっ……消えてしまいたい。
その言葉を口にする代わりに「はぁ……」と小さくため息を漏らして、再びメニュー表に視線を移した。

もう、いいや。
2度とこのお店に来ることもないだろうし、この2人に会うこともない。

むしろ、全く私のことを知らない人たちに思う存分罵ってもらった方が、逆にスッキリするんじゃないだろうか。お酒の席だし、どうせ明日には私のことなんて覚えてもないはず。

そんな考えがふと頭を過り、追加でカクテルをオーダーしようと顔を上げたときだった。


「はい、これ。お隣の彼から」
「……は?」


いきなり店員さんからカクテルグラスを差し出され、間抜けな声が出てしまう。

驚いて目をまん丸にして固まっていると、隣の彼が口を開いた。


「カシスソーダ」
「……?」

「あなたは魅力的」


突然そんなことを言われ、心臓がドキンと大きく波打つ。

……えっ、なに? もしかして私口説かれてる?
出会ったばかりの男性に?

まさかそんな、あり得ない。


「カシスソーダのカクテル言葉だ」
「あっ……そうなんですね」


ドキドキしながらメニュー表を見てみると、確かにそう書かれている。

びっくりした……。
でも、さすがに出会ったばかりの人を口説くなんてことしないわよね。
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