初恋のお兄ちゃんはIT社長?!執着社長の溺愛デイズ
天沢由紀は出社する
久しぶりの出社は、彼の家からだった。
宏樹は寝落ちした由紀の汗を拭い、ベッドへ運んだ足でそのまま一緒に眠ったらしい。目覚めると、真横に神様の造形物かと思うほどの美しい横顔があり、相当驚いたのはここだけの秘密。昨日どうやってここまできたんだっけ?寝落ちしちゃったような?と思い出して、途中で自分が気を失ったのだと思い出した。
彼の腕の中で眠っていた理由も、今自分の太ももを彼が撫でていることも、だんだんと現実味が増してくる。まだ再会して3日しか経っていないというのに、自分はなんてことをしたんだと後悔していると、目の前の彼と目が合った。
「おはよう由紀」
「あっ、おはよう、ござい、ます」
昨夜この相手とどんなことをしたか、鮮明に思い出してしまってとても気まずい。あの甘美な感覚を思い出して、ついつい彼の唇や指先を見てしまう。
そんなよそよそしい態度の由紀を愛おしそうに眺めた宏樹は、ぎゅうっと抱きしめてから、軽く口付けた。
「朝から由紀に会えるなんて、俺は幸せものだな」
頭をくしゃくしゃと撫でられると、彼の飼う犬や猫になったような気持ちになる。少し雑だけれど、大きな愛に可愛がられているような、そんな気持ち。
「ねぇ、あの……ヒロくんに相談しても、いい?」
「いいよ? どうした?」
宏樹の腕の中にいる間は、昔の素直な自分に戻れた気がする。再開する仕事への不安や、やりがいや楽しみも、思ったままを話せる。時々頭を撫でてくれる宏樹の腕に、由紀はすぐに夢中になった。
「由紀は大丈夫。俺が保証する」
4日ぶりの出勤が不安なのだと見透かしたような宏樹は、由紀に噛み付くようなキスをした。それはそのまま蕩けるような甘いキスに変わる。慣れないキスに戸惑う由紀を、宏樹の舌先がゆっくりと誘導する。
「舌……絡めて……そう。ん……上手」
ピチャピチャと卑猥な水音が寝室に響く。広樹の手が由紀の頭を支えていて、終えるタイミングを与えてくれない。唇が離れるたびにほんの少しだけ吸い込む空気が、由紀をさらに溶かしていく。
どのくらいの時間、くっついたり離れたりを繰り返していただろう。彼から与えられる刺激の全てに反応してしまう由紀は、肩を振るわせながら必死に彼の舌遣いに付き合った。
宏樹の手が由紀の素肌に触れようかというところで、スマホのアラームが同時に鳴った。ピピピピという刺激音が重なる。ふたりとも初期設定のままだねと笑いながらスマホをと手に取った。
「……そんな名残惜しい顔しないで。今日も閉じ込めておきたくなるから」
宏樹は不適な笑みを浮かべて、俯いた由紀の顎をクイっと持ち上げると、あえて音を立てて軽いキスを落とした。
***
入社以来、こんなに長期間お休みをもらったことはなくて、出勤が気まずい。宏樹からは、溜め込んでいた有給を使う良い機会だったと思った方がいいとアドバイスされたけれど、素直にそう思っていられるほど能天気ではない。
彼の車で店の前まで送ってもらえたけれど手ぶらで入るわけにもいかず、恵比寿の駅ナカへ戻り菓子折りを買って、店へ向かった。
「おはよう、ございます……」
裏口から入り、賃貸部のドアを恐る恐る開ける。店長にまたドヤされるのだろうと思うと胃がキリキリと痛む。
「お! おはよう、天沢! ようやく元気になったか〜?」
「天沢先輩! おはようございます!」
おかしい。数日前には炎上してトラブルを被り、全員が大焦りしていたはずなのに。同僚の平野と数日間大騒ぎしていた芹沢が同時に明るい挨拶を返してくれて、拍子抜けする。
「お、はよう……? あれ、店長は?」
由紀の"店長"という言葉に反応して、両者が顔を見合わせた後、由紀の方へにこそこそと寄ってきた。ドアを閉めろと言って、裏口へ回ると三人でヒソヒソと肩を組んで話す。
「あのさ。ここだけの話、店長ってヤバいやつだと思ってなかった?」
「俺は思ってました……天沢さんにだけ強気でキモくて」
「え、あれ私だけだったの?」
全員が同じ態度を取られているから仕方ないと思い込んでいたけれど、自分だけだったなんて。今更ながら腹が立つ。
「そうっすよ! いっつも偉そうな癖にお客さんにはヘラヘラしてて、嫌な感じでした」
「だよな、だよな。それで俺、ちょっと前……営業部長が来た時にその話を軽〜く話したんだよ」
「それで、何か進展があったから、これ?」
「いや、実際はまだ何もないんだけど、昨日から店長来てないんだ」
だから近々なんかお触れがあるかもと、由紀の方へピースサインをするふたり。職場ではそんなに仲がいいと思ったことのない関係だったけれど、実はそうでもなかったらしい。
「あと、ヤバい口コミはイエッサーの担当さんが対応してくれて……無事解決っす!」
「イエッサー? なんでそこでイエッサーが出てくるの?」
イエッサーとは、日本中の不動産取引会社が登録しているオンライン賃貸情報サービスシェアNo1の掲載サイト。ミカサ不動産恵比寿店も登録していることはしているけれど……まめに連絡を取り合ったり、特集ページを組んだりするような関係ではない。
「え? だって、彼氏……ですよね?」
芹沢の一言で、平野が凍りつく。は?と言いたげな顔でこちらを見て、口をあんぐり開けたまま首を傾けた。
「あー……それは、えっと……」
あんなにも長い時間一緒にいたのに、どんな仕事をしているかは、きちんと聞かなかった。芹沢は彼から名刺を受け取っているはずだから、嘘をつくはずもないけれど、きちんと聞いていないから肯定もしづらい。
さらに思い返せば、付き合うとも彼女になるとも言われてはいない。勝手に舞い上がって幸せな気分のまま出勤したのに、大切なことを全て聞き忘れていた。となると、ここではなんとも説明し難い。
「まぁ……身内、的な……」
言葉を濁して話しているうちに、朝礼5分前のチャイムが鳴る。また今度ねと話を逸らして、3人は駆け足でオフィスへ戻った。
宏樹は寝落ちした由紀の汗を拭い、ベッドへ運んだ足でそのまま一緒に眠ったらしい。目覚めると、真横に神様の造形物かと思うほどの美しい横顔があり、相当驚いたのはここだけの秘密。昨日どうやってここまできたんだっけ?寝落ちしちゃったような?と思い出して、途中で自分が気を失ったのだと思い出した。
彼の腕の中で眠っていた理由も、今自分の太ももを彼が撫でていることも、だんだんと現実味が増してくる。まだ再会して3日しか経っていないというのに、自分はなんてことをしたんだと後悔していると、目の前の彼と目が合った。
「おはよう由紀」
「あっ、おはよう、ござい、ます」
昨夜この相手とどんなことをしたか、鮮明に思い出してしまってとても気まずい。あの甘美な感覚を思い出して、ついつい彼の唇や指先を見てしまう。
そんなよそよそしい態度の由紀を愛おしそうに眺めた宏樹は、ぎゅうっと抱きしめてから、軽く口付けた。
「朝から由紀に会えるなんて、俺は幸せものだな」
頭をくしゃくしゃと撫でられると、彼の飼う犬や猫になったような気持ちになる。少し雑だけれど、大きな愛に可愛がられているような、そんな気持ち。
「ねぇ、あの……ヒロくんに相談しても、いい?」
「いいよ? どうした?」
宏樹の腕の中にいる間は、昔の素直な自分に戻れた気がする。再開する仕事への不安や、やりがいや楽しみも、思ったままを話せる。時々頭を撫でてくれる宏樹の腕に、由紀はすぐに夢中になった。
「由紀は大丈夫。俺が保証する」
4日ぶりの出勤が不安なのだと見透かしたような宏樹は、由紀に噛み付くようなキスをした。それはそのまま蕩けるような甘いキスに変わる。慣れないキスに戸惑う由紀を、宏樹の舌先がゆっくりと誘導する。
「舌……絡めて……そう。ん……上手」
ピチャピチャと卑猥な水音が寝室に響く。広樹の手が由紀の頭を支えていて、終えるタイミングを与えてくれない。唇が離れるたびにほんの少しだけ吸い込む空気が、由紀をさらに溶かしていく。
どのくらいの時間、くっついたり離れたりを繰り返していただろう。彼から与えられる刺激の全てに反応してしまう由紀は、肩を振るわせながら必死に彼の舌遣いに付き合った。
宏樹の手が由紀の素肌に触れようかというところで、スマホのアラームが同時に鳴った。ピピピピという刺激音が重なる。ふたりとも初期設定のままだねと笑いながらスマホをと手に取った。
「……そんな名残惜しい顔しないで。今日も閉じ込めておきたくなるから」
宏樹は不適な笑みを浮かべて、俯いた由紀の顎をクイっと持ち上げると、あえて音を立てて軽いキスを落とした。
***
入社以来、こんなに長期間お休みをもらったことはなくて、出勤が気まずい。宏樹からは、溜め込んでいた有給を使う良い機会だったと思った方がいいとアドバイスされたけれど、素直にそう思っていられるほど能天気ではない。
彼の車で店の前まで送ってもらえたけれど手ぶらで入るわけにもいかず、恵比寿の駅ナカへ戻り菓子折りを買って、店へ向かった。
「おはよう、ございます……」
裏口から入り、賃貸部のドアを恐る恐る開ける。店長にまたドヤされるのだろうと思うと胃がキリキリと痛む。
「お! おはよう、天沢! ようやく元気になったか〜?」
「天沢先輩! おはようございます!」
おかしい。数日前には炎上してトラブルを被り、全員が大焦りしていたはずなのに。同僚の平野と数日間大騒ぎしていた芹沢が同時に明るい挨拶を返してくれて、拍子抜けする。
「お、はよう……? あれ、店長は?」
由紀の"店長"という言葉に反応して、両者が顔を見合わせた後、由紀の方へにこそこそと寄ってきた。ドアを閉めろと言って、裏口へ回ると三人でヒソヒソと肩を組んで話す。
「あのさ。ここだけの話、店長ってヤバいやつだと思ってなかった?」
「俺は思ってました……天沢さんにだけ強気でキモくて」
「え、あれ私だけだったの?」
全員が同じ態度を取られているから仕方ないと思い込んでいたけれど、自分だけだったなんて。今更ながら腹が立つ。
「そうっすよ! いっつも偉そうな癖にお客さんにはヘラヘラしてて、嫌な感じでした」
「だよな、だよな。それで俺、ちょっと前……営業部長が来た時にその話を軽〜く話したんだよ」
「それで、何か進展があったから、これ?」
「いや、実際はまだ何もないんだけど、昨日から店長来てないんだ」
だから近々なんかお触れがあるかもと、由紀の方へピースサインをするふたり。職場ではそんなに仲がいいと思ったことのない関係だったけれど、実はそうでもなかったらしい。
「あと、ヤバい口コミはイエッサーの担当さんが対応してくれて……無事解決っす!」
「イエッサー? なんでそこでイエッサーが出てくるの?」
イエッサーとは、日本中の不動産取引会社が登録しているオンライン賃貸情報サービスシェアNo1の掲載サイト。ミカサ不動産恵比寿店も登録していることはしているけれど……まめに連絡を取り合ったり、特集ページを組んだりするような関係ではない。
「え? だって、彼氏……ですよね?」
芹沢の一言で、平野が凍りつく。は?と言いたげな顔でこちらを見て、口をあんぐり開けたまま首を傾けた。
「あー……それは、えっと……」
あんなにも長い時間一緒にいたのに、どんな仕事をしているかは、きちんと聞かなかった。芹沢は彼から名刺を受け取っているはずだから、嘘をつくはずもないけれど、きちんと聞いていないから肯定もしづらい。
さらに思い返せば、付き合うとも彼女になるとも言われてはいない。勝手に舞い上がって幸せな気分のまま出勤したのに、大切なことを全て聞き忘れていた。となると、ここではなんとも説明し難い。
「まぁ……身内、的な……」
言葉を濁して話しているうちに、朝礼5分前のチャイムが鳴る。また今度ねと話を逸らして、3人は駆け足でオフィスへ戻った。