初恋のお兄ちゃんはIT社長?!執着社長の溺愛デイズ
天沢由紀は愛される
食材の宝石箱や〜!なんて騒ぐお笑い芸人の言葉が浮かんでしまうほど、そのフレンチは美しく豪華で、どれもとても美味しいものばかりだった。
勧められるがままに食事とペアリングしたワインもどれも美味しく、天にも昇るような気持ちになる。
「私みたいな薄給の会社員じゃ、一生来られなかったかも」
まるで自虐みたいだけれど、これは立派な本心。
「素敵なところへ連れてきてくれて、ありがとうヒロくん」
「いえいえ。その顔が見たくて来たんだ、正解だったね」
机に不意に置いていた左手を取られる。彼の口元へ誘導された左手に、柔らかな唇が触れた。左手の陰で彼の口角がキュッと上がる。
由紀の心臓はどきんと大きく跳ねる。今まで感じたことのない胸の痛みが同時に襲ってきた。
嫉妬。
恋愛どころか片思いすら碌にしてこなかったせいで、初めて胸を焦がすようなその気持ちが、ジリジリと痛い。喉の奥が急にカラカラになったような、焼けるような痛みを感じる。
もう喉の途中まで出掛かっている言葉のせいで、彼と繋がっている左手がじっとりと汗をかいた。
「でも、そうやって……優しくしないで……」
本当は触れて欲しい。誰よりも優しくされたい。特別になりたい。でも、誰だっていいと思われているならそんな相手になるのは嫌だ。
こんなふうにしてくれるのは、そういう経験があるからだろう。そう感じた瞬間に、胸の中のどんよりとした感情がむくむくと大きく膨れ上がっていく。
ソファで起きたことも、ベッドでのキスも、恋愛初心者の由紀には刺激が強すぎた。自分が彼にとって大切な人間なのだと、思いたくなってしまうような甘やかな刺激。
「じゃないと私、勘違いしちゃう……から」
今朝、芹沢に彼氏ですよね?と聞かれて、自分が舞い上がっていただけだと自覚させられたばかり。これ以上甘やかされて、勘違いして、苦しんだりはしたくない。
「……勘違い?」
宏樹は低めの声で、何を言っているんだという顔を向けた。密やかで、真剣なトーン。少し皺のよった眉間に威嚇するような強い圧を感じる。やっぱり、自分なんかが思い上がってはいけない。それすらも許さないという意味なのかも。
簡単に口にしたことは、もう後悔しながらも止められなかった。由紀の中で膨れ上がった言葉はつらつらと出ていってしまう。
彼に掴まれている左手はいまだに離してもらえない。むしろ更に強く握られていて、少し痛いくらいだ。
「私ね……ヒロくんが初恋、なの」
せめて笑って話せたらと笑みを浮かべたのに、視界がぶわっと滲む。いけない、このままでは涙が溢れちゃう。
「それからずっと、誰にも、同じ気持ちにはならなかったのに……」
斜め下を見るように目線を下げて、涙をナプキンの上へ落とす。瞬きをするたびに溢れる大粒の涙。下ろした髪で、彼に表情が見えないことを祈る。
「運命みたいに再会できて、こんな素敵なところへ連れてきてくれて……」
子供のように自分勝手を言って、無理を突き通したいわけじゃない。駄々を捏ねているように見えても仕方ないけれど、
「駄目だってわかってても、こんなの、好きになっちゃう……」
彼の手を引いて、泣きながらわがままを言った別れの日を思い出す。あの日の私は、絶対にヒロくんのお嫁さんになると言って彼と家族を困らせた。こんな素敵なお店で泣いているのだから、あの日よりもタチがわるい。
「……なってよ」
まだデザートのワゴンが来る前だというのに、彼は席を立って由紀の側で両膝をついた。昔、私と目線を合わせてくれていた時と同じポーズで言葉を続ける。
「好きになってよ。俺のお嫁さんになってくれるんでしょ」
宏樹は、涙の止まらない由紀の頬をハンカチで拭って、顔を見せてと笑った。
「でも……私なんかヒロくんの特別には」
ただの会社員で、取り柄もない、可愛くもない。そんな自分が、こんなにも優しくて王子様みたいな人に選んでもらえるとは思えない。
「熱があっても仕事に行こうとしたり、後輩にも同僚にも慕われてたり、絶対に感謝を忘れなかったり。……俺はそんな頑張り屋でまっすぐな、由紀が好きなんだ」
「すぐ落ち込んじゃうし……あの頃みたいなところばっかりじゃ無いのに?」
「新しい由紀を知るチャンスがあるなんて、俺には幸せでしかないよ」
何を言っても嬉しいだの、幸せだのと返される。後半は半ば強引で、彼の必死さが嬉しくて思わず笑みが溢れた。
「だからさ。観念して、俺に捕まってよ」
「……もし捕まったら、どうなっちゃうの?」
「俺が一生、死ぬまで幸せにする」
彼の長いまつ毛が細かく揺れる。由紀の両手を撫でながら、宏樹は真面目な顔でこちらを上げている。
「……プロポーズみたい」
「そう受け取ってくれて構わない」
はっきりとした返答に、思わず息を呑んだ。
「俺には今も昔も、由紀しか見えてない。……だから、俺に一生愛されて」
はいという由紀の返答を待たずに、唇に触れるような優しいキスが降ってきた。宏樹はそのまま由紀の唇を摘むように口付け、何度も角度を変えて求愛を続ける。彼の手は由紀の後ろ頭をしっかりとホールドしていて、離れることなどできない。
「愛してるよ、由紀」
いつも優しかったお兄ちゃんは、私の最初で最後の溺愛彼氏になった。
勧められるがままに食事とペアリングしたワインもどれも美味しく、天にも昇るような気持ちになる。
「私みたいな薄給の会社員じゃ、一生来られなかったかも」
まるで自虐みたいだけれど、これは立派な本心。
「素敵なところへ連れてきてくれて、ありがとうヒロくん」
「いえいえ。その顔が見たくて来たんだ、正解だったね」
机に不意に置いていた左手を取られる。彼の口元へ誘導された左手に、柔らかな唇が触れた。左手の陰で彼の口角がキュッと上がる。
由紀の心臓はどきんと大きく跳ねる。今まで感じたことのない胸の痛みが同時に襲ってきた。
嫉妬。
恋愛どころか片思いすら碌にしてこなかったせいで、初めて胸を焦がすようなその気持ちが、ジリジリと痛い。喉の奥が急にカラカラになったような、焼けるような痛みを感じる。
もう喉の途中まで出掛かっている言葉のせいで、彼と繋がっている左手がじっとりと汗をかいた。
「でも、そうやって……優しくしないで……」
本当は触れて欲しい。誰よりも優しくされたい。特別になりたい。でも、誰だっていいと思われているならそんな相手になるのは嫌だ。
こんなふうにしてくれるのは、そういう経験があるからだろう。そう感じた瞬間に、胸の中のどんよりとした感情がむくむくと大きく膨れ上がっていく。
ソファで起きたことも、ベッドでのキスも、恋愛初心者の由紀には刺激が強すぎた。自分が彼にとって大切な人間なのだと、思いたくなってしまうような甘やかな刺激。
「じゃないと私、勘違いしちゃう……から」
今朝、芹沢に彼氏ですよね?と聞かれて、自分が舞い上がっていただけだと自覚させられたばかり。これ以上甘やかされて、勘違いして、苦しんだりはしたくない。
「……勘違い?」
宏樹は低めの声で、何を言っているんだという顔を向けた。密やかで、真剣なトーン。少し皺のよった眉間に威嚇するような強い圧を感じる。やっぱり、自分なんかが思い上がってはいけない。それすらも許さないという意味なのかも。
簡単に口にしたことは、もう後悔しながらも止められなかった。由紀の中で膨れ上がった言葉はつらつらと出ていってしまう。
彼に掴まれている左手はいまだに離してもらえない。むしろ更に強く握られていて、少し痛いくらいだ。
「私ね……ヒロくんが初恋、なの」
せめて笑って話せたらと笑みを浮かべたのに、視界がぶわっと滲む。いけない、このままでは涙が溢れちゃう。
「それからずっと、誰にも、同じ気持ちにはならなかったのに……」
斜め下を見るように目線を下げて、涙をナプキンの上へ落とす。瞬きをするたびに溢れる大粒の涙。下ろした髪で、彼に表情が見えないことを祈る。
「運命みたいに再会できて、こんな素敵なところへ連れてきてくれて……」
子供のように自分勝手を言って、無理を突き通したいわけじゃない。駄々を捏ねているように見えても仕方ないけれど、
「駄目だってわかってても、こんなの、好きになっちゃう……」
彼の手を引いて、泣きながらわがままを言った別れの日を思い出す。あの日の私は、絶対にヒロくんのお嫁さんになると言って彼と家族を困らせた。こんな素敵なお店で泣いているのだから、あの日よりもタチがわるい。
「……なってよ」
まだデザートのワゴンが来る前だというのに、彼は席を立って由紀の側で両膝をついた。昔、私と目線を合わせてくれていた時と同じポーズで言葉を続ける。
「好きになってよ。俺のお嫁さんになってくれるんでしょ」
宏樹は、涙の止まらない由紀の頬をハンカチで拭って、顔を見せてと笑った。
「でも……私なんかヒロくんの特別には」
ただの会社員で、取り柄もない、可愛くもない。そんな自分が、こんなにも優しくて王子様みたいな人に選んでもらえるとは思えない。
「熱があっても仕事に行こうとしたり、後輩にも同僚にも慕われてたり、絶対に感謝を忘れなかったり。……俺はそんな頑張り屋でまっすぐな、由紀が好きなんだ」
「すぐ落ち込んじゃうし……あの頃みたいなところばっかりじゃ無いのに?」
「新しい由紀を知るチャンスがあるなんて、俺には幸せでしかないよ」
何を言っても嬉しいだの、幸せだのと返される。後半は半ば強引で、彼の必死さが嬉しくて思わず笑みが溢れた。
「だからさ。観念して、俺に捕まってよ」
「……もし捕まったら、どうなっちゃうの?」
「俺が一生、死ぬまで幸せにする」
彼の長いまつ毛が細かく揺れる。由紀の両手を撫でながら、宏樹は真面目な顔でこちらを上げている。
「……プロポーズみたい」
「そう受け取ってくれて構わない」
はっきりとした返答に、思わず息を呑んだ。
「俺には今も昔も、由紀しか見えてない。……だから、俺に一生愛されて」
はいという由紀の返答を待たずに、唇に触れるような優しいキスが降ってきた。宏樹はそのまま由紀の唇を摘むように口付け、何度も角度を変えて求愛を続ける。彼の手は由紀の後ろ頭をしっかりとホールドしていて、離れることなどできない。
「愛してるよ、由紀」
いつも優しかったお兄ちゃんは、私の最初で最後の溺愛彼氏になった。