天河と七星


「中條さん。今、時間取れる?」

翌日。勤務中に山口部長に声をかけられた。

「はい。大丈夫です」
「今、新しい部長と引き継ぎしているんだけど。現場のことは中條さんのほうが詳しいから案内してくれるかい?」
「わかりました」

社員の入れ替わりはよくあるが、部長の交代はこの九年間で初めてだ。新部長は山口部長の親戚でまだ若いと聞いている。
ちょっと緊張するな。


「中條七星です。よろしくお願いしま…す…」

私は山口部長とともに応接室へと入る。
車椅子に座った新部長の姿を見るなり、私は言葉を失った。


ーーうそ。そんなはずない。


天河が眼の前にいる。
昨日、思い出に浸りすぎて幻が見えてる?

スーツを着た天河は私の記憶より幼さが抜けてすっかり落ち着いた大人になっていた。

あぁ。
これは現実だ。
だって、いつも澄んだ笑みをたたえる天使のようだった顔は精悍な顔つきに変わり、私を見るその目に感情はこもっていなかったから。


私の口からはあいさつさえ出てこない。馬鹿みたいに立ちすくむしかできなかった。
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