天河と七星
「普段は自分で歩いているが、移動が多い時は車椅子を利用する。業務中は併用するので車椅子の扱いに慣れている七星に介助をお願いしたい」

現場を視察したあと天河が私に言った。

七星、と名前を呼ばれるだけで心臓が鷲掴みされたようにぎゅっときしむ。

無理だ。
できるだけ天河とは距離を置きたいくらいなのに。

必死に動揺を隠す私とは対象的に、天河のきれいな顔に表情はなく、声も淡々としていて特別な感情は全くないようだった。

「私のことは、中條とお呼びください。
私は通常業務で手一杯です。車椅子の介助は他のかたにお願いしてください」

「九年も同じ仕事をしている主任が手一杯なはずがない。私の車椅子を押す時間くらい作れるだろう。
それとも、上司の依頼を断りますか?」

「……わかりました」

こんな威圧的な言い方をする人じゃなかった。
彼の前では私の抵抗なんてミジンコレベルにすぎない。

今、天河はどんな気持ちで私を見ているんだろう。

私にとって彼がそばにいるなんて、ただの拷問だ。

< 13 / 67 >

この作品をシェア

pagetop