天河と七星
「九年も音沙汰なかったのに」

ふとこぼれた言葉に自分で驚いた。

まさか私、この九年間ずっと天河からの連絡を待っていた?

「離婚届を出したという連絡くらい来るかと」

慌てて付け足した言い訳は、情けないくらい声が小さくなってしまった。

「放っておいたわけじゃない。七星が仕事に一生懸命取り組んできたこと、知ってるよ。
僕と別れた時、中條家では金づるを掴みそこねたと大騒ぎだったんだろ?今まで七星を育てるためにどれだけ費用がかかったかって、責められたって。
だから、おしゃれもせず、遊びにも行かず、稼いだ給料のほとんどを奨学金の返済と中條家に送っていることも知ってる。
せめてお金の支援をしようとしたのに、七星は僕からのお金は受け取ってくれなかったね。
本当は大学卒業したらすぐに迎えに来るつもりだった。親戚の山口にもそう言って七星のことを頼んでいたんだ。
でも、卒業直前に書いた論文が認められて研究を続けることになって。日本に帰ることさえ難しいくらい毎日忙しかった。
結局、九年もかかってしまった」
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