天河と七星

私は特別個室Aと書かれたプレートを確認してから恐る恐るノックした。

「七星!待ってたよ」

開けたドアの向こうを見て私は思わず絶句した。
角部屋で二方向に大きな窓。窓のそばには本格的な天体望遠鏡。50インチはあるだろう大きなテレビに、重厚なデスクとチェア。大きな観葉植物に、ふかふかのソファと足乗せ用のオットマン。
ここは高級ホテル?

「天河、特別個室だなんてあなた何者なの?」
「あぁ、この部屋、窓広くて天体観測にはバッチリでしょ?
さ、あんまり時間ないから。準備しよ。電気消すから、こっち来て」

立派な部屋に圧倒されているヒマもなく天河は部屋の電気を消した。

「七星、こっち。望遠鏡の向きは調整してある。
うーんまだ空は薄明か。もう少しだね」
「目がまだ暗さに慣れてないから、ちょうどいい」

最初はあまりに立派な病室にびっくりしたけど、いつもと変わらない天河の様子に私も落ち着きを取り戻す。
部屋なんてどうでもいい。面会終了の20時まで時間もない。今日の目的は彗星の姿を捉えること。

< 28 / 67 >

この作品をシェア

pagetop