天河と七星


「あちらは、七星さんのお母様ですか?」

騒ぐ七海を尻目に天河が落ち着いた様子で大輔さんに尋ねた。客間の奥の仏壇にあった母の写真に気付いたのだ。

「そうです。姉は頭が良くて、ロケットに乗って宇宙に行くと言ってアメリカに留学したんですよ。
実際に乗ってたのはロケットじゃなくて外国人の男だったみたいだけど」

大輔さんの下品な冗談に、七海以外誰も笑わない。

「姉は最期まで七星の父親が誰か言わなかった。モテるタイプじゃなかったから、言えない相手だったのか、相手が誰かわからなかったのか。
優等生だった姉の唯一の汚点を俺が仏心で面倒見ているんです。七星には感謝してもらいたいもんだ」

大輔さんも七海も母が無理やり外国人の男に襲われて望まぬ妊娠をしたのだと思っている。私の父は母を襲った犯罪者だと。
母が死んだことで真実は闇の中だ。もはや罵りに慣れてしまった心は傷つきもしない。

「こんなやつでも家を出ていくと困るんですよ。妻も勝手に出ていって、七海は体が弱くて。家政婦を雇うのも金がかかります。
九条さん、久我さん。いくら出せますか?こんな見た目でも中條家の血筋ですし、はした金は勘弁してくださいよ」

大輔さんの下品極まりない要求に天河のご家族は言葉を濁らせ、この場は終わった。

天河の家族はどう思っただろう。天河の選んだ相手がこんな出生の女だと知ってがっかりしただろうか。

< 42 / 67 >

この作品をシェア

pagetop